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白鷺で8年前のリクエストを消化してみた。
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リクエストは白鷺家で「赤ちゃんはどうやって出来るの?」でございます。
お子様ネタでありますので苦手な方はバックプリーズ!
「お父さん、赤ちゃんはどうやって出来るんですか?」
ついに、きて、しまったか。
白鷺が覚悟を決めていた質問がこの日、ついに、来てしまった。
どうして母親であるあいにその質問が行かなかったのか、あいなら上手くかわせるというのに。
よりにもよって、何故自分。何故、私。正直に答えることは出来ないが、どうやってかわすかが解らず白鷺は固まってしまう。
「お父さん、知らないんですか?」
ああ、幼児期はパパと呼んでいたあの日が懐かしい。お風呂の水がどこに行くのか、なんて言っていた息子がこんなに立派に。妹が出来たら急激に大人になってしまった。
涼の成長の早さの前で現実逃避をしていた白鷺だったが、涼の好奇心に光る瞳は未だ輝いたまま。
嘘ではないが、真実でもない……そんな理由がパっと出てくればいいのに。ああ、何故普段高速回転する脳はこんな時に使い物にならないのか。
「……知っては、います」
当たり前だ。寧ろ白鷺がそれを知らなかったら成人男性として気色悪いし、涼はこの場に居ないだろう。
でも説明したくはありません、とついつい言外に漏らしてしまう白鷺。だがそんな事、子供の涼には関係ない。
世の中知らない事だらけなのだ。知りたい、なんだろう、どうしてだろうと毎日忙しいのだ。知っているならさっさと教えなさいとばかりに涼が父親を追い詰める。
「じゃあ教えてください」
「そうですね……一言では説明出来ないのですが、」
赤ちゃんとは雌しべと雄しべが……いや、それでは突っ込まれた時に痛い。ならキャベツ畑説やこうのとり説……いや、この利発な涼をごまかしきれるはずが無い。
ならお父さんとお母さんが愛し合って、それで愛の結晶が……いやいや、それもまた一番知られたくない場所を突っ込まれたらかなりきついじゃないか。
「えぇ……と、ですね、」
白鷺が窮地に追い詰められているその時、ついに笑いを殺しきれなくなったあいがぶっ、と大きく噴き出す。
何が起きたかわからず、白鷺があいの方へと視線をやれば彼女は思いっきり上を見上げて惜しげもなく喉を晒して笑っていた。
「もぉーだめ! 我慢できないぃー!!」
白鷺が苦悩に苦悩を重ねているというのに、何故あいが大笑いしているのか全く理解できない。
待ってくれ、何故こんなに苦しむ自分を見て笑っているのか。あの日、永遠の愛を誓ったパートナーに対してその態度は如何なものか、と。
「りょーまさん、真面目すぎ! 真剣すぎて顔が怖いですよ!」
言いたい放題のあいを恨めしそうに睨む白鷺、状況が全く読めずに首をかしげる涼。そんなそっくりさんに見られてやっぱりおかしくてケラケラ笑うあい。
ああなんて楽しいんだろう。あいは感慨深そうに涼を改めて見つめる。つい最近まで中身は母親である自分に似ていたのに、やはり涼は白鷺の息子だった。仕草なんてまるでコピーだ。
そしてコピー元である白鷺は気に入らないという態度を隠しもせずにあいに詰め寄る。
「あい……一体何がおかしいんでしょうか?」
「いや、おかしい事だらけですよ!」
「別に面白い事なんてどこにもなかったと思いますが……」
「だって、如何にも核心を突かれましたって顔して……!」
白鷺の困った顔を思い出してあいがまた噴き出す。流石に詰まらなくなった白鷺、そしてそのJrである涼は不満げな顔を並べる。
ああ、そんな似たような顔で睨まれても面白いだけなのに。が、しかしだ。
確かに息子が純粋に疑問を抱き、それに真摯に向き合うお父さんを笑うなんていけない事だろう。断じていけないだろう。
「まぁまぁ。ふたりともそんな顔しないで。確かに私が悪かったです」
突然神妙な顔をしたって、先ほど大笑いしていた人物の反省など信用できない。
白鷺と涼はじと、とあいを見つめて猜疑心を隠そうともしないでいる。
しかしあいはそんな視線に怯むことなく。利き手の人差し指だけをピンと立てて胸を張って言い放つ。
「涼、子供がどうやって出来るかはママが教えてあげる!」
「な……っ!」
何故このような深刻かつ繊細な問題に対してそうも明るくなれるのか。この問題は決してそんな明るい顔で話せるものではない。
しかしあいは楽し気に、そして高らかに話し出そうとする。それに興味津々の息子、涼。
「赤ちゃんは神様が授けてくれます!」
「は?」
「涼真さんと私ですっごく強くお祈りして、神様がこのふたりなら育てられるなぁ~って思ったからお母さんのおなかの中に涼と真奈を入れてくれましたっ!」
拳を作り熱く持論を展開するあい。間違っちゃいないような、でもやっぱり間違っているというか、いやそうであったらどんなに良いか……少なくてもそうだったら悲しい顛末を追う子供は居なくなるのに。
というか、そんな説明で自分たちの息子は納得するのか。妙に利発で勘の鋭い涼をちらり、と窺うと……そこにはキラキラと目を光らせる子供が居た。
「すごい……! じゃあ、僕も真奈もお父さんとお母さんが神様に認められたから生まれて来たの……!?」
「そう! 涼も真奈は神様からの授かりものです! すごいね!! 勢いって大事!!!」
意味の解らないノリで素敵だね、そうだね!と母子がはしゃぐ側で完全にアウェー感を味わう白鷺は声に反応して泣き出したもう一人の授かりものである真奈の元へと歩き出す。
行けばどうやら寂しかったようで、父親の顔を見るなり泣き止む真奈に苦笑いをする白鷺の表情には少し疲れが出ている。あいのようには絶対になれない。
勢いだけでズバ!と言えば案外子供なんてすぐ納得する、と彼女がよく言っていた。要は大人になった涼と真奈に恥じない自分でさえあればそれで良いのだ。
「真奈、私には勢いが足りないようです……、」
「うー?」
白鷺の苦悩を、小さな赤子だけが聞き届けていたが……残念ながら子供はどこから来るか、という議論から今日のランチは何にするかにシフトしている涼とあいの耳には届かなかった。
勢いのまま抱き寄せるよ
(愛してるからって笑えばそれで良いのさ)